経営者のための発信コラム
「フォロワーが増えないから、意味がない」——その121人から、採用が決まりました
「未だかつてないぐらい、いい人材やった」
先日、採用が決まったときの言葉です。発信のお手伝いをしている、大阪で不動産会社を経営されている方から聞きました。掲載の許可をいただいたので、紹介させてください。
その方が応募してきたきっかけは、X(旧Twitter)でした。
そのアカウントのフォロワーは、121人です。
数字だけ見れば、止める理由しかありません
先日、このアカウントを実測しました。
直近の表示回数は、287、212、156、151、91。1投稿あたり平均179回です。いいねは平均2.8。月に30本出したとして、ひと月の総表示はおよそ5,400回になります。
一方で、同じ方のYouTubeチャンネルは、登録者が5万3千人。直近で数字を見せていただいたときは、ひと月のインプレッションが526万回、視聴が34万回でした。こちらも弊社が、企画・撮影・編集から運用までを担当しています。
数字だけ並べると、届く量に1000倍の差があります。
ただし、この2つは育ってきた時間がまったく違います。YouTubeは2年かけて5万人を超えるところまで来ました。一方、Xのほうを私たちがお手伝いし始めたのは、今年の8月半ばです。まだ1ヶ月半しか経っていません。
2年と1ヶ月半を並べて「1000倍の差」と言っても、意味がありません。それでも、数字だけを見ている限りは、Xのほうは畳んだほうがいいように見えます。実際、多くの方はこの段階でやめます。
その1人は、両方を見てから来ていました
ところが、その1ヶ月半のあいだに、冒頭の採用が決まりました。
応募された方は、YouTubeもXも全部見たうえで面接に来て、内定を受けて現職を辞める決断をされたそうです。面接の前に食事にも行かれ、そのときの印象もよかったと聞きました。
では、その方はどこで決めたのか。社長の見立ては、こうでした。
効いたのは、YouTubeではなくXのほうだった
「Xの方が効いたなっていう気はする。おちゃらけもほぼゼロやんか。それを見て共感してきてくれたのが大きい」
ここで、私たちの立ち位置を書いておきます。Xに並んでいるのは、すべて社長ご自身の言葉です。私たちがしているのは、隔週でお話を伺って、その場で出てきた判断や考え方を引き出すところまで。書いているのも、決めているのも、ご本人です。
「おちゃらけがほぼゼロ」になるのは、伺っている場面が違うからです。私たちがお聞きしているのは、経営や仕事の判断の話です。街を歩きながら撮る動画とは、話している場面がそもそも違います。
同じ人でも、仕事の判断を話しているときは、おちゃらけません。Xに出ているのは、そちらの顔というだけのことです。
「ふるいにかけれてる」とは、どういうことか
続けて、こう説明されました。
Xでふるいにかけれてる感じがする。 YouTubeで「この人いいな」と思ってくれた人が、Xまで見た時に、「こんな感じやけど、仕事はちょっと厳しい目線で見てはる人なんや。この厳しさやったら、俺はこういうところで働きたい」みたいに持っていけたら、と思ってて。
ここに、2つの媒体の役割の違いが出ています。
YouTubeは、入口です。5万人が見ていて、楽しそう、面白そう、いい人そう、というところまで連れてきてくれる。
Xは、その先でした。楽しさを削った、仕事の話だけが並んでいる場所です。だから、入口で興味を持った人が「この人は実際どうなんだろう」と確かめに来たときに、判断材料になる。
そして、確かめに来た人は、フォロワー数を見に来たわけではありません。「この人はどういう人か」を知りに来ています。読むのは、中身のほうです。
発信には、2つの仕事があります
私は、発信の仕事は2つに分かれると考えています。
ひとつは、知ってもらう仕事です。まだ自分を知らない人に届く。ここは母数がすべてで、届く先が少なければ、何を書いても始まりません。フォロワーを増やす、表示回数を上げる、という話はこちらです。
もうひとつが、確かめてもらう仕事です。どこかで名前を知った人が、見に来る。ここに母数は要りません。来る人は、もう決まっているからです。
この2つを同じ物差しで測ると、後者は必ず失敗に見えます。フォロワーも表示回数も、そもそも伸びる構造になっていないからです。
冒頭に書いた1000倍の差は、優劣ではありませんでした。役割が違っただけです。
フォロワーには数えられない人が、見に来ています
ここからは、読んでくださっている方の話です。
発信を止める理由として、私がいちばんよく聞くのがこれです。半年やってもフォロワーが増えない。表示回数も二桁のまま。だから意味がない、と判断される。
ただ、止める前に確かめてほしいことがあります。その場所は、そもそも知ってもらうための場所だったのか、ということです。
名刺を渡した相手。紹介で名前を聞いた人。ホームページを見た人。そういう方が、あなたの名前を検索して、SNSを見に来ています。
その人たちは、フォロワーには数えられません。表示回数にも、ほとんど現れません。数字の上では、いなかったことになります。
けれど、その数回の閲覧で、会うかどうかが決まっていることがあります。
何人に届いたかではなく、誰が見たか
今回の件を数字で言い直すと、こうなります。
ひと月の表示は、およそ5,400回。そのうち、会社を辞めてまで来ようと決めた人が、1人いました。
この1人の重みは、採用の費用に置き換えると見えてきます。
1人を採るのにかかる費用が、仮に50万円だとします。ただ、50万円払えば自社にかみ合う人が必ず来るかというと、そうではありません。10人採って、本当に合うのが1人、ということが起きます。
そうすると、その1人にたどり着くまでに、実際には500万円かかっていることになります。
社長も、同じ計算をされていました。
10本出して1人なら、500万円の人材
「10本来て1人来るかみたいなレベルの子っていう意味で捉えると、500万の人材っていう捉え方もしようと思ったらできる」
つまり、発信から「この人だ」と思える1人が来たなら、それだけで500万円ぶんの仕事をしたことになります。媒体に10人ぶんの費用を払って探す代わりに、向こうから、もう決めた状態で来てくれたわけです。
ここで、数字の見え方が反転します。
ひと月5,400回。この数字を眺めても、何が起きたのかは分かりません。分かっているのは、この中に、会社を辞めてまで来ようと決めた人が1人いた、ということだけです。
残りの閲覧が無駄だったのかというと、それも分かりません。今日見た人が、半年後に連絡をくれることもあります。確かめる場所では、見た時点と、動く時点がずれます。
つまり、確かめてもらうための発信は、価値が閲覧回数に比例しません。 平均を取ると、その1人がならされて消えてしまう。179という数字の中に、あの1人は入っていないのです。
知ってもらうための発信なら、平均も合計も意味を持ちます。届いた総量が、そのまま成果に近いからです。けれど確かめてもらうほうは、同じ見方をすると必ず「効いていない」と出ます。
では、何を見ればいいのか
確かめてもらうための発信は、画面の数字では測れません。表示回数にもフォロワー数にも、ほとんど現れないからです。
では諦めるのかというと、そうではありません。測る場所が違うだけです。
会った人に、聞けばいいのです。
面接に来た方に「何を見て応募されましたか」。商談の席で「どこで知っていただきましたか」。紹介をいただいたときに「相手の方に何をお伝えいただきましたか」。
今回の採用も、そうやって分かりました。社長が本人と話して、YouTubeもXも全部見てから来たと知った。データを見て分かったのではありません。
面倒に思えるかもしれませんが、確かめてもらう発信の成果は、ここにしか出てきません。逆に言えば、聞きさえすれば分かります。
止めると、来た人が判断できなくなります
もうひとつ、続ける必要性のほうです。
確かめる場所の厄介なところは、いつ見られるか分からないことです。今日書いたものが、半年後に誰かに読まれるかもしれない。その人が来る日を、こちらから選べません。
今回、応募された方が見に来たとき、そこにはそれまでの投稿が積み上がっていました。1本ずつは平均179回しか見られていない投稿です。けれどその方は、それをひととおり見て、判断材料にしました。
もし数えるほどしかなかったら、どうだったでしょうか。「こういう人なんだ」と分かるところまで、届かなかったかもしれません。1本では人柄は分かりません。並んでいるから分かります。
今日の1本が今日効くのではなく、積み上がった全体が、ある日、1人に効きます。
反応がないからと止めることは、確かめに来た人が判断できない状態を作ることでもあります。そして来なかった人のことは、こちらには分かりません。
同じ500万円でも、片方は残ります
さきほどの計算に、もう1つ足したいことがあります。
求人媒体で採ろうとすれば、10人ぶんの費用がかかります。そして採用が終われば、掲載も終わります。払ったお金は、そこで消えます。 次に人が要るようになったら、また同じだけ払うことになります。
一方で、今回その方が見た投稿は、採用が決まったあとも、そのまま残っています。
次に応募を考える人が現れたら、その人もこれを見ます。取引先が「どんな会社だろう」と検索したときにも出てきます。紹介しようとしてくれた人が、相手に渡す材料にもなります。一度書いたものが、次の1人にも、その次の1人にも効きます。
同じ500万円ぶんの結果でも、片方は使った時点で消え、片方は積み上がったまま働き続ける。発信が資産になる、と言われるのは、たぶんこのことです。
もちろん、古くなる情報はあります。価格も、商品も、数字も変わります。ただ、その人がどう考え、何を大事にして決めているかは、そう簡単には古くなりません。だから社長の言葉は、何年経っても判断材料として使えます。
積み上がるものを増やすか、毎回払い直すか。その選択でもあるのだと思います。
止める前に、ひとつ決めてください
数を数えることは、必要です。届く先が100人なら、どれだけ良いことを書いても100人にしか届かない。そこは変わりません。
ただ、数字は、役割が決まって初めて意味を持ちます。同じ121という数字が、知ってもらう場所なら足りていないし、確かめてもらう場所なら十分でした。
もし、いま発信を止めようか迷っている方がいたら、数える前にひとつ決めてみてください。
その場所は、知らない人に見つけてもらうためのものですか。それとも、すでにあなたを知っている人が、確かめに来る場所ですか。
前者なら、数字を見てください。伸びていないなら、やり方を変える必要があります。
後者なら、画面を閉じて、次に会った人に聞いてください。そして、その日が来るまで置いておくことです。
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