経営者のための発信コラム
「うちが何屋か」は伝わっている。「なぜやっているか」は、たぶん伝わっていない
自分の代わりに、誰かが自分のビジネスを説明してくれる場面があります。紹介、代理店、社員が誰かに話すとき。そういうとき、相手が持っている材料は、こちらが渡したものだけです。
私はここで、はっきり失敗しました。
開発に振り切ると決めて、代理店の仕組みを作った
今年、自社のサービスに販売パートナー——いわゆる代理店の仕組みを作りました。
理由ははっきりしていて、自分の時間を開発のほうに振り切ると決めたからです。私が全部売りに回っていたら、作るほうが止まる。だから、売る側を人にお願いできる形にする。条件を決め、契約書を用意し、提携も決まりました。ここまでは順調でした。
でも、売れませんでした。
いま振り返っても、開発に寄せる判断そのものは間違っていなかったと思っています。間違っていたのは、仕組みさえ作れば動く、と思っていたことのほうでした。
「自分が売れていた」ことが、かえって邪魔をした
売れない理由を、最初は「売り方を教えていないからだ」と考えました。
私が直接お会いした場合は、ほとんど決まっていました。だからその型さえ渡せば同じ結果が出るはずだ、と。でも、そうはなりませんでした。自分が売れていることと、人が売れるようになることは、まったく別の話です。
いま思えば、私が売れていた理由は、話がうまいからではありませんでした。自分で作っているので、どうしても思い入れがあるんです。なぜこれを作ったのか、誰のどんな困りごとを見てこうしたのか。聞かれなくても話してしまう。それが相手に伝わっていただけでした。
つまり私は、意識しないまま渡せていたものがありました。意識していないので、それを渡す必要があることにも気づけません。自分で売れてしまっていたぶん、何を渡せば足りるのかを考えずに済んでいたわけです。
では何が足りなかったのか。あとから3つに分けてみて、ようやく分かりました。
プラン、価格、機能の一覧、報酬の計算方法。ここはむしろ丁寧に渡していた
商談の進め方、どう話すか。足りないと気づいて、いま渡そうとしていた
いちばん薄かった。渡したつもりで、ほとんど渡せていなかった
WhatとHowだけを受け取った人は、「いい商品を、うまく売る人」になるしかありません。私が求めていたのは一緒にやってくれる人だったはずなのに、渡していたのは商品を売ってくれる人に向けた資料でした。
このズレに気づけたのは、先日、あるフランチャイズ本部の代表の方の講演を聞いたときです。
商品は比べられる。理由は比べられない
講演の冒頭で、こんな問いが出ました。
身近な人に「私って何をしている人か知ってる?」と聞いてみてください
返ってきた答えが「◯◯の商品を扱っている人だよね」「◯◯のサービスの人だよね」だったとしたら、それはかなり問題です
その方はこう続けました。その仕事を始めたとき、儲かりそうだからという理由だけで始めた人は、ほとんどいないはずだ、と。たいていは何かの課題を見て、それを何とかしたいと思って始めている。なのに周りが知っているのは商品のほうで、始めた理由のほうは知られていない。
そのうえで、伝える配分は9対1がいいと言っていました。9が「なぜやっているか」、1が「何を売っているか」。ただ実際に見ていると、多くの場合はその逆——10対0に近い、とも。私が渡した資料は、まさに10対0でした。
なぜ配分がそこまで効くのか。商品を渡された人は、商品でしか説明できないからです。そして商品の説明は「同じようなものなら、あっちのほうが安い」で終わります。伝えるほど、相手を比較の土俵に立たせてしまう。理由のほうには、比べる相手がいません。「そんなことをやっていたのか」「何か手伝えることある?」に変わるのは、こちらの側です。
できあがった途端に「見てみて」になる
では、なぜWhyだけが落ちるのか。講演のあと、廊下で話しながら気づいたことがあります。
自分でいいサービスを作れたとき、人はそれを売り出しやすくなります。私も最近それをしすぎていて、違和感がありました。作っている最中のほうが、よほど想いがこもっている。なのに、できあがった途端に「見てみてください」に変わってしまう。
作っている最中は、誰のどんな困りごとを見て、なぜこれを作らなければと思ったのかを、いくらでも話せます。でも完成すると、話す内容が機能の説明にすり替わる。熱があった部分を全部落として、残った仕様だけを配っているわけです。
代理店の方に渡した資料は、まさにその「できあがったあと」の姿でした。開発に振り切ったぶん、私は完成品のほうばかりを手渡していたことになります。
同じ「家を建てて売る」でも、伝え方がまるで違った
そもそも、なぜ私がここにこだわるのか。もとは、不動産の広告に関わる仕事をしていたころに見た光景です。
同じ「家を建てて売る」でも、2種類ありました。ひとつは、周りと同じような家を、コストを抑えて建てるもの。もうひとつは、この土地だからこの建物なんだ、という設計をしたものです。
後者は、広告の出し方も、伝え方も、集まるお客さんの数も、はっきり違いました。理由は単純で、売る側が面白がっていたからです。営業がワクワクして話せる。広告をつくる側もワクワクして書ける。買う人にも、それは伝わります。関わった全員が少し嬉しい、という状態がそこにはありました。
一方、コストだけを抑えた物件はどうか。ニーズの多いエリアなら売れます。でも、ニーズのないエリアでは売れません。自分の外側にある条件でしか勝負ができないからです。
このときに見た差を、私はいまだに引きずっています。
私のWhyを、ここに書いておきます
こう書いておきながら、この記事にもまだ自分のWhyを載せていませんでした。書きます。
「なぜ、あなたじゃなきゃいけないのか」。その問いに自分の言葉で答えられる状態を、一人でも多くの経営者につくってほしい。 これが、私がこの仕事をしている理由です。
いい仕事をしているのに選ばれない会社を、これまで何度も見てきました。多くの場合、腕の問題ではありません。自分じゃなきゃいけない理由が、まだ言葉になっていないだけです。言葉になっていなければ、価格と機能で比べられるしかない。逆に、そこに答えを持っている人は、そもそも比べられません。
そして、その先に見たいものがあります。生きがいや使命を持って働く人を増やしたい、ということです。自分じゃなきゃいけない理由を持っている人は、たいてい周りにいい影響を与えています。あの家がそうだったように、本人が面白がっているものは、伝える人も、受け取る人も、少し嬉しくさせる。その連鎖を増やしたいと思っています。
代理店の方に渡すべきだったのは、プランでも報酬計算でもなく、ここでした。これさえあれば、その人は「商品を売る人」ではなく「同じことをやりたい人」として、自分の言葉で誰かに話せたはずです。
発信でも、同じことが起きている
ここまでは代理店の話ですが、発信もまったく同じ構造だと思っています。
発信は、自分が読まれるためだけのものではありません。誰かがあなたのことを別の誰かに話すときの材料でもあります。紹介してくれる人も、あなたの会社を人に説明する社員も、持っているのはあなたが出したものだけです。商品の説明しか出していなければ、商品の説明しか返ってきません。
そしてもうひとつ。商品やサービスの説明は、どこかで必ず尽きます。機能の数は有限だからです。3回も書けば書くことがなくなり、「もうネタがない」になる。発信が止まる方の多くは、この地点で止まっています。
一方で、なぜやっているかは尽きません。仕事の途中で見た困りごと、あえて断った案件、うまくいかなかった月、それでも続けている理由。どれも素材になりますし、どれも自分にしかない話です。「書くことがない」は、書く対象を商品に限定しているから起きているのかもしれません。
以前、使命は熱いのに、ビジネスにならないという記事で、使命が言葉になっていないと届かない、という話を書きました。今回はその一歩先です。言葉にはしているのに、人に渡すものには載せていない。私がやっていたのは、これでした。
まとめ——今日できる、ひとつの確認
大きな仕組みを変える前に、まず現在地を測るところからだと思っています。
社員でも、取引先でも、家族でも構いません。返ってきた答えが商品名やサービス名だけなら、そこがあなたの発信の現在地です
もし今、発信しても反応が薄いと感じているなら、量を増やす前に、渡している中身の配分を見てみてください。商品の説明は、極端に言えばあなたでなくても書けます。なぜやっているかは、あなたにしか書けません。
書くことが尽きないほうを、まだ渡していないだけかもしれません。
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