経営者のための発信コラム
「そこが強みですよ」と言われても、ピンとこない理由
「そこ、御社の強みですよ」と言われて、「いや、そんな大したことはしてないです」と返したことはないでしょうか。
嫌味で言っているのではなく、本当にそう感じている。褒められているのは分かるけれど、自分の中では当たり前すぎて、どこがいいのか実感がわかない。
そして、いざ発信しようとすると手が止まります。人から言われたことは腑に落ちていないし、自分で思いつくことは「わざわざ書くほどでもない」気がする。書くことが無いのではなく、どれを書いていいか決まらないんです。
先日、その理由がはっきり分かる話を聞きました。眼鏡の話です。
印象の8割は、「レンズの形」と「鼻のところの高さ」で決まる
オーダーメイドの眼鏡をつくっている経営者の方の工房に、お邪魔する機会がありました。デザインから製造まで自社でやっていて、十年ほどオーダーを受け続けてきた方です。
その方いわく、人の印象はほとんど2つの要素で決まるそうです。ひとつはレンズの形。もうひとつは、レンズとレンズのあいだ、鼻のところの高さ。
この高さが上にあると、眉がまっすぐ伸びて見えて、シャープで強い印象になる。下にあると、眉が下がって見えて、柔らかく優しい印象になる。まったく同じ四角いレンズでも、そこが少し違うだけで別人の印象が生まれます。
実際に並べて見せてもらうと、これがはっきり分かるんです。形は同じなのに、受ける感じがまるで違う。
「俺、丸メガネ似合わへんわ」は、たぶん勘違い
面白かったのはこの先でした。
その方は言います。眼鏡屋さんの店頭には、ひとつの形につき一種類しか置いていない。だからお客さんはその1本をかけてみて、「丸は似合わない」「自分はこういう雰囲気じゃない」と判定してしまうのだと。
でも、実際には高さを合わせれば、どんな形でもその人に似合わせることができる。似合わなかったのは形ではなく、合わせ方だったわけです。それを知らないまま、人は自分に何十年もレッテルを貼り続けます。
これ、発信でまったく同じことが起きていないでしょうか。
一度だけ書いてみて反応がなかった。営業っぽくなるのが嫌で途中でやめた。だから「うちの業界は発信に向いてない」「自分は文章が苦手だ」と決めてしまう。たった1本の合わなかった眼鏡で、自分には眼鏡が似合わないと結論を出しているのと同じです。
周りが「似合う」と言った形を、本人だけが選ばなかった
その日、実際にこんな場面がありました。
その方が、参加者のひとりに丸い眼鏡をすっと差し出したんです。ご本人は苦笑いでした。ふだんなら絶対に選ばない形だったからです。差し出した側も、それを分かっていて言いました。「絶対に選ばないでしょう。だからこそ、あえてです」と。
ところが、かけた瞬間に周りの反応が変わりました。似合う、小説家みたいだ、と口々に言うんです。お世辞を言っている空気ではありませんでした。
かけている本人だけが、その顔を見られていません。
鏡や写真で見ているのは、左右が逆だったり、見慣れた角度だけだったりします。他人が毎日見ている自分の顔を、自分は一度も見たことがありません
「いつもの自分と違う」と「似合わない」は、別のこと
その方が続けた言葉が、いちばん残りました。
顔って客観的に見られないんです。だから人は、いつもの自分と違う=似合わないと思ってしまう。
そのあと出したのは、髪型の例でした。大きく変えた直後は、鏡の前で「しっくりこない」と思う。でも1週間すると、何とも思わなくなる。言われてみると、思い当たります。似合っていなかったのではなく、見慣れていなかっただけです。
発信を始めた人が、数本書いてやめてしまう理由の多くも、たぶんこれだと思っています。
書いた文章を読み返して、「なんか自分じゃないみたいだ」「気取っているように見える」と感じる。それで恥ずかしくなって止める。でもその違和感は、中身が間違っている証拠ではなく、自分の言葉を外から見た経験がまだ無いだけなんです。
自分の考えが文章になって目の前にある状態は、ほとんどの経営者にとって初めての体験です。初めて見るものが見慣れないのは、当たり前です。
見慣れるまでの期間は、誰にでもあります。3本目あたりから、急に普通のことになります
形(テーマ)を捨てる前に、長さ・語り口・誰に向けて書くかを変えてみる。たいていはそこで解決します
「ベター」で止まるか、「ベスト」まで行くか
もうひとつ、印象に残った話があります。
その方は最初、眼鏡の製造を外に頼もうとしたそうです。でも外注だと、決まったサイズの中からしか選べない。それでは「ベター」な提案しかできない。だから自分の会社に工場をつくった、と話していました。
発信も似ています。よくできた投稿の型を借りてくれば、それなりのものはできます。ただ、借り物の型に自分を合わせているあいだは、どこまでいってもベターどまりです。
ベストは、自分の寸法を測るところからしか始まりません。 そして自分の寸法は、自分ひとりでは測れない。だから人に見てもらう工程が要ります。
以前、「うちには書くことがない」と言う会社ほど、書くことがあるという記事を書きました。あれは「持っているのに気づいていない」話でした。今日のはその次の段階で、気づかせてもらっても、最初は受け取れないという話です。何を書き、どう続けるかの全体像は経営者の発信 完全ガイドにまとめています。
最後に
もし今、人から言われた強みがピンと来ていないなら、それは的外れだからではなく、自分の顔を自分で見られないからかもしれません。
そして、書いてみた文章が自分らしくない気がしてやめかけているなら、もう2本だけ続けてみてください。見慣れるのに、だいたいそのくらいかかります。
似合わないのではなく、まだ見慣れていないだけです。
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