「あっという間にできた」——早く終わったぶん、気づく時間も減っていました 経営者のための発信コラム

「あっという間にできた」——早く終わったぶん、気づく時間も減っていました

2026-10-04|松井祐太(プロフィール)

時間をかけて作っていたものが、あっという間にできてしまう。

AIを使い始めた方なら、一度は経験があると思います。提案書でも、挨拶文でも、会社紹介の文章でも、頼めばすぐに形になります。しかも、出てきたものはちゃんと読める文章になっています。だから、そのまま次へ進めてしまいがちです。

私の場合は、YouTube動画の台本でした。そして最近、早く終わるようになったぶん、一緒に減っているものがあることに気づき始めました。今日はその話を書かせてください。

形だけは、仕上がります

私は動画制作の会社をやっていて、YouTube動画の台本を作る仕事があります。以前は、長い時間をかけて作っていました。いまは、その作業にAIを使っています。

すると、あまりにも早く終わります。読んでみると、台本の形にはなっている。だから、それで進めてしまうことがあります。

ただ、次の2つは別のことです。

1
形が仕上がっている

見出しがあり、順番があり、読める文章になっている。AIに頼めば、ここまではすぐに届きます

2
中身を、自分が分かっている

人に聞かれたときに、自分の口で説明できる。こちらは、出来上がったものにざっと目を通すだけでは届きません

形だけ仕上がったもので進めるのは、本質的にはまずい。形が仕上がったところは、完成ではなく出発点です。私はそう考えています。

これは台本に限らない話です。たとえば、AIに作ってもらった会社紹介の文章があるとします。読んだ方から「ここは、どういう意味ですか」と聞かれて、すぐに答えられるでしょうか。文章は手元にあるのに、中身は自分の中に入っていない。形だけ仕上がるというのは、そういう状態のことです。

では、時間をかけて作っていた頃は、何が違っていたのでしょうか。

作っているあいだに、理解が進んでいました

長い時間をかけて台本を作っていた頃は、作っているあいだに、時間と一緒に理解が進んでいました。途中で気づくこともありました。

AIで早く終わるようになって、なくなったのは作業の手間だけではありませんでした。理解が進んでいく時間ごと、なくなっていました。 気づきが減ったと感じています。

作る時間が短くなると、その中にあった「理解が進む時間」も一緒に短くなります
作る時間が短くなると、その中にあった「理解が進む時間」も一緒に短くなります

手間を減らしたつもりで、気づく時間まで一緒に減らしていた。図にすると、こうなります。

正直に書くと、台本以外でも、似たことを感じています。長い文章を読むのが億劫になってきた気がしますし、気がつくとショート動画ばかり見ていて、もったいない時間だったと思うこともあります。AIと関係があるのかは、分かりません。

とはいえ、AIを使うのをやめようという話ではありません。

作る作業は手伝ってもらい、理解と改善の時間を別に取ります

早く作れること自体は、ありがたいことです。

以前は、手を動かす時間と、理解が進む時間が、同じ時間の中に入っていました。AIに手伝ってもらうと、手を動かす時間が短くなります。それなら、理解する時間のほうは、別に取り直せばいい。いまはそう考えています。

そこで、やり始めたことが一つあります。AIで作った台本を音声に変えて、聞く時間を取ることです。作っているあいだに進んでいた理解を、時間をかけて聞くことで取り直す試みです。

ただ、聞いて理解するだけでは、まだ半分です。聞いていると、「ここは違う」「ここは足りない」と気づくところが出てきます。そこを直す時間まで取って、はじめて台本がよくなります。

まだ気づき始めたばかりです。「早く終わったから次へ」ではなく、「早く終わったから、そのぶんを理解と改善に使う」。この順番にしていきます。

AIは助手です。任せきることは、できません

ここまでの話は、経営者が自分の会社について発信する文章にも、当てはまりそうです。

文章を書くのが苦手で、発信が止まっている。そういう方は、書く作業をAIに手伝ってもらって構わないと思います。私も、作る作業は手伝ってもらっています。

ただ、私の中でのAIの位置づけは、助手です。手間は助けてもらえます。けれど、出すものの仕上がりまで任せきることは、できません。 読む方は、AIが書いたかどうかに関係なく、その会社の言葉として受け取るからです。

AIが出してくる文章は、形が整っているので、完成したように見えます。そこからが、中身を詰める作業です。確かめるのは、たとえば次の3つです。全部でなくて構いません。まずは1つだけでも、出すものは変わります。

自分の言いたいことと、合っているか

それらしい文章でも、自分の考えと少しずれていることがあります。ずれたまま出すと、そのずれが会社の言葉になります

聞かれたら、自分の口で説明できるか

説明できない一文は、まだ自分のものになっていません。分かるまで直すか、削ります

自分の会社でなくても、書ける文章になっていないか

どの会社にも当てはまる文章は、形は整っていても、読んだ方の記憶に残りにくくなります

形になるまでが早くなったぶん、その時間を、質を上げるほうに回せます。 早く終わることの値打ちは、ここにあります。早くできたぶん、もう一段よくしてから出す。それが、私の基準です。

3つ目の「自分の会社でなくても書ける文章」には、もう少し続きがあります。

中身は、あなたの中にしかありません

台本と、自分の会社についての文章には、一つ違いがあります。

台本の題材は、自分の外にあります。調べれば出てくるものなので、形を作るところはAIに手伝ってもらい、理解はあとから時間を取って取り直せます。

自分の会社についての文章は、そうはいきません。なぜその仕事をしているのか。何を大事にしてきたのか。中身は、あなたの中にしかありません。 AIに「会社紹介を書いて」と頼むと、形の整った文章はすぐに出てきます。ただ、その中身はAIが用意したものです。どの会社にも当てはまる文章になりやすいのは、そのためです。

私が作っているTanemiという発信の道具は、ここの順番を逆にしています。先に文章を出すのではなく、先に、あなたに問いかけます。 なぜその仕事をしているのか。そう考えるようになった出来事は何だったのか。答えが足りなければ、別の角度からもう一度聞きます。

問いに答えるには、少し考える時間がかかります。すぐに文章が出てくる道具より、手間です。

けれど、その時間は、台本を作っていた頃の「理解が進む時間」と、同じ種類の時間です。答えているあいだに、自分の仕事のことが、自分で分かっていきます。出来上がる文章は、自分で答えたことから出来ているので、聞かれても自分の口で説明できます。

Tanemiの値打ちは、文章を速く作ることではありません。あなたの中にあるものを、引き出すことです。文章は、そのあとに付いてくるものだと考えています。

最後に

「あっという間にできた」は、悪いことではありません。発信が止まっている方にとっては、始めるきっかけになります。

まだ1本も出せていないなら、まずAIに手伝ってもらって、1本を形にしてみてください。そのうえで、出す前に1つだけ確かめる。聞かれたら、自分の口で説明できるかどうかです。

AIは助手として使い、中身と仕上がりは自分で持つ。私も、そうしていきます。

松井祐太
松井祐太株式会社Four Aces 代表

映像制作会社を経営しながら、AIで経営者の発信を仕組みにする「Tanemi」をつくっています。たとえばサロンを選ぶとき、どんな人がどんな想いで向き合ってくれるかは、ポータルサイトの条件だけでは伝わりませんよね。発信は、その「あなた」を届ける場所です。だから、お客様には「この人にお願いしたい」と選ばれます。採用も同じで、まだ発信していない人が自分の魅力を言葉にできたら——業界やエリアを越えて、その人に本当に合う仲間や従業員との出会いが増えるはずです。発信を通じて、そんな出会いと、幸せになる人を増やしたい。人生が輝くきっかけを、つくり続けたいと思っています。

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