「なぜこの仕事を始めたんだっけ」——書いた言葉は、まず自分に返ってきます 経営者のための発信コラム

「なぜこの仕事を始めたんだっけ」——書いた言葉は、まず自分に返ってきます

2026-09-04|松井祐太(プロフィール)

今月の数字、来月の資金繰り、辞めそうな社員。目の前のことに必死になっていると、ふとした瞬間に、自分が何のためにこの仕事を始めたのかを、思い出せなくなることがあります。

嫌になったわけではありません。志が下がったわけでもない。ただ、思い出す時間がないだけです。

以前このコラムで、使命は熱いのに、ビジネスにならないという話を書きました。使命が言葉になっていないから、必要としている人と出会えていない、と。いまも同じ考えです。ただ最近、その手前にもう一段あったことに気づきました。届かない以前に、本人が忘れてしまうんです。

使命は、消えるのではなく、埋もれる

経済的に余裕がないと、使命は後回しになります。これは前回書いたとおりです。

でも後回しが続くと、順位が下がるだけでは済まなくなります。しまい込んだものは、しまい込んだこと自体を忘れます。日々の判断が全部「今月どうするか」で決まるようになって、そのうち、自分がなぜこの仕事を選んだのかを聞かれても、すぐには答えが出てこない。

これは能力の問題ではありません。単純に、思い出す機会がゼロだからです。誰も聞いてくれませんし、自分から思い出そうとする時間もない。

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忘れると、比べられる場所に出ていくしかなくなる

「なぜやっているか」が手元にないと、語れるのは商品と価格だけになります。そこは必ず、もっと安いところがある土俵です

つまり、忘れることは気持ちの問題では終わりません。経済のほうに、ちゃんと跳ね返ってきます。使命を思い出せない人ほど、値段で選ばれる場所に立たされる。そして値段で戦うほど余裕がなくなって、ますます思い出す時間がなくなる。

諦めるより先に、「誰のために」が変わる

使命を手放すとき、劇的なことは起きません。会社をたたむわけでもないし、看板もそのままです。変わるのは、宛先のほうです。

本来いちばん届けたかった相手では、商売が回らない。それで、儲かりそうなほうへ少しずつ寄っていく。気づいたときには、客層も、扱っているものも、最初に思い描いていたのとは違うところに来ている。そういう方を、たくさん見てきました。

責める気は、まったくありません。生活がかかっているので、仕方のないことです。 私が同じ立場でも、そうすると思います。

ただ、なぜそうなるのかを考えると、能力でも情熱でもない。言葉にして伝える機会も、発信する場も、届けたい相手と出会う機会も、無かった。 それだけのことが、ほとんどです。ちゃんと届いてさえいれば、寄せる必要はありませんでした。

そして、これは人の話としてだけ書いているのではありません。私自身が、手段を目的にしていました。

新卒で入った会社で営業をしていたころ、いつか独立したいと思っていました。そのためにまず、社内で一番になろう、と。一番になるのは、独立するための手段だったはずです。

それがいつのまにか、一番になること自体が目的になっていました。数字が全て、という思考になっていく。何のために独立したかったのかは、そのころ、いつのまにか後ろに下がっていました。

宛先を見失うと、手段だけが残ります。残った手段は、たいてい忙しいので、見失っていることにも気づけません。

使命は、こうして静かに宛先を失います。そして宛先を失った使命は、そのうち思い出されなくなります。

こう書くと、「その程度の思いなら使命とは呼ばない」と言われるかもしれません。そうかもしれない、とも思います。

ただ、使命も、種から育てるものだと考えています。最初から完成した形で持っている人のほうが、たぶん少ない。独立したい。一番になりたい。粗い動機でも、そこから始まって、いろんな経験を通っていくうちに、だんだん「誰のために」が見えてくる。私の場合も、そうでした。

そう考えないと、使命は特別な人だけのものになります。もともと志の高い、選ばれた人だけが持てるもの。そういうことにしてしまうと、世の中は、それ以上よくなりません。

だから、いま自分の使命がはっきりしないという方も、順番は同じです。無いのではなく、まだ育っていないだけです。

忘れて、宛先が変わって、また忘れる。この輪を、どこかで逆に回さないといけません。その入口が、発信です。

発信は、外に届く前に、自分に届いている

先日、うれしいことがありました。

大阪でサロンを経営されている方が、ご自分のSNSにこんな投稿をされていたんです。うちのツールを使って記事を書いてくださっている方です。

目の前のことに必死で見えなくなっていた、自分の中にずっとあった「信念」

サロンを始めて、手探りで進む中で迷ったり立ち止まったりすることもあった——そう前置きしたうえで、自分の想いを言葉にしていく中で、なぜこの仕事を始めたのかを改めて思い出した、と書かれていました

大阪・サロン経営者の投稿より(ご本人が公開されているものです)

うれしかったのは、紹介していただいたことではありません。書いた本人が、書くことで思い出していたということです。

この方が最初にお試しくださったのは、1か月半ほど前です。そのときにも「また迷った時や初心を思い出したい時に、この記事を読み返したい」という感想をいただいていました。ありがたい言葉でしたが、感想は、まだ感想です。本当にそうなるかどうかは、そのあとの時間が決めます。

そして1か月半経って、実際にその通りのことが起きました。発信は、届ける前に、まず自分に返ってきます。

決めていたことと、実際に起きることは、別の話です

私が作っているツールは、記事を量産するための道具ではありません。話しているうちに、自分でも忘れていたことが出てくる。そこを狙って設計しました。

名前に入っている「種」は、眠っている価値のことです。無いのではなくて、あるのに起きていない。外から足すのではなく、その眠っている種を実にする。最初からそういうつもりで作ってきました。

ただ、そう設計したことと、それが本当に人の中で起きることは、別の話です。作った側からは、確かめようがありません。

実際に使っていただくと、返ってくるのは成果の報告ではありません。「泣きそうになった」「会社を辞めた時の想いが詰まっていた」——自分の中にあったものが、自分に見えたという反応のほうが、はっきり多いんです。

考えてみれば当たり前でした。自分の言葉を最初に読むのは、いつだって自分です。読者は後から来ます。

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順番を戻すと、続く理由が変わる

「反応がないと続かない」のは、報酬を外に置いているからです。書くたびに自分の芯が戻ってくるなら、いいねの数と関係なく続けられます

思い出した人から、順番に回りはじめる

そして、思い出した人は、だいたい人に話したくなります。

さきほどの投稿も、私が頼んだものではありません。ご本人が、自分で思い出した信念を、自分の言葉で外に出された。売り込みではなく、伝えたくなったから伝えている。だから読んだ人にも届きます。

ここまで来ると、輪が逆に回り始めます。

①思い出す

発信のために言葉にする過程で、自分の原点が自分に返ってくる

②語れるようになる

商品ではなく「なぜやっているか」で話せるので、比べられる土俵から降りられる

③ファンが増える

理由に共感した人は、値段では離れません。そして人に話してくれます

④商売が回る

余裕が生まれるぶん、本当に届けたい相手を選べるようになる

⑤仲間が増える

回りだすと人手が足りなくなります。そのときに、応援してくれていた人が一緒に働いてくれる

⑥使命を続けられる

後回しにしなくてよくなるので、忘れずに済む

⑤の話は、あまり聞きません。うまくいくと、次は人が足りなくなる。そこで求人を出して条件で人を集めると、条件で辞められます。でも、その会社の「なぜ」に反応して集まっていた人の中から一緒に働く人が出てくると、話が変わってきます。お客さんを増やした言葉が、そのまま仲間を増やす言葉になるんです。だから採用のお手伝いまでが、ひと続きです。

きれいごとに聞こえるかもしれません。でも、使命だけでは続きません。使命を全うするには、それが経済として回っている必要があります。だから発信は、理念の表明ではなく、使命を続けられる状態を作るための実務です。

私がやりたいのは、発信を増やすことではありません

信念や使命を持って生きる人を、増やすこと。 それが、この仕事でやりたいことです。発信は、そこに届けるための手段でしかありません。

使命を持って始めたのに、お金の理由で宛先を変えてしまう。 本人のせいではありません。ただ、いちばんもったいない。

本当はいい仕事をしていて、始めた理由もちゃんとある。なのに、それを言葉にする余裕がないうちに埋もれていく。そこに言葉を戻せれば、応援してくれる人が増え、商売として成り立ち、一緒に働く仲間まで来ます。そして一人がそうなると、周りにも影響が出ます。

その連鎖を作り続けることが、私にとっての社会貢献です。人生が輝くきっかけを、作り続けたい。

最後に

もし今、忙しさの中で「なぜこの仕事を始めたんだっけ」と思う瞬間があるなら、それは危険信号ではなくて、思い出すタイミングが来ただけだと思ってください。

いきなり発信しなくてもかまいません。誰かに「なんでこの仕事を始めたんですか」と聞いてもらうだけでも、驚くほど出てきます。それを一度、文字にしてみる。届ける相手を探すのは、そのあとで大丈夫です。

書いた言葉は、まずあなたに返ってきます。

発信の全体像については経営者の発信 完全ガイドにまとめています。話すだけで言葉になる形を試したい方は、無料体験から。

松井祐太
松井祐太株式会社Four Aces 代表

映像制作会社を経営しながら、AIで経営者の発信を仕組みにする「Tanemi」をつくっています。たとえばサロンを選ぶとき、どんな人がどんな想いで向き合ってくれるかは、ポータルサイトの条件だけでは伝わりませんよね。発信は、その「あなた」を届ける場所です。だから、お客様には「この人にお願いしたい」と選ばれます。採用も同じで、まだ発信していない人が自分の魅力を言葉にできたら——業界やエリアを越えて、その人に本当に合う仲間や従業員との出会いが増えるはずです。発信を通じて、そんな出会いと、幸せになる人を増やしたい。人生が輝くきっかけを、つくり続けたいと思っています。

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